第84章 その日が来る事を心待ちにしています
『六弥さんも、紅茶派なのですね。私もですよ。貴方とは仲良く出来そうです』
「OH!アナタが、ワタシとの共通点をそんなふうに喜んで下さるなんて。思わず世界中の茶葉を買い占めたい気持ちになってしまいました」
『ふふ、なんですかそれ。変な人』
「やはり、アナタには難しい顔よりスマイルがよく似合います。ところで…もう呼んではくれないのですか?ナギ、と」
しっとりと、なんとも色気のある瞳をこちらに向けるナギ。一体、いつからだろうか。
私を見る彼の目が、こんなふうに変わったのは。
持ち上げていたカップをソーサーに置き、取っ手から指を抜く。
『そうですね…貴方が私の質問全てに誠意を持って答えてくれたら、考えましょうか』
「YES.Her Highness」
『…貴方、もはや隠す気ないでしょう』
私がじとりと睨み付けると、ナギは肩を小さくすくめて返事をするのだった。
“ Her Highness ” というワードは、男性には決して使わない。
『まぁ、いいです。それで早速質問ですが…
二階堂さんは、お元気ですか』
「……」
ナギは、何を思ったのか。その整った唇に笑みを浮かべた。そして、心の底から滲み出る喜びを噛みしめるように、言葉を紡ぐ。
「アナタは、優しい」
『…はい?』
「いま、アナタの心の中にはきっと、質問が山のようにあるはずです。それなのに、1番最初に口にした言葉は…
マイフレンド、ヤマトを気遣うものでした。それをワタシは、とても嬉しく思います。
そして、ヤマトに代わって御礼を言います。ありがとうございます」
私はナギが言うように優しくない。だって、私こそが大和を傷付けた張本人なのだから。
しかし。面と向かってこうも丁寧に頭を下げられてしまっては、否定すら難しい。
気恥ずかしさと罪悪感から、私は視線を泳がせて頬をかいた。