第84章 その日が来る事を心待ちにしています
巳波が私の秘密に気付いている。その事実に行き着いたナギもまた、私の秘密に気付いているのだろう。
そう考えるのが自然な流れ。
ナギは、悩ましい顔をして答える。
「Umm…その問いに、正確に答える事は非常に難しいです。
ですがワタシは、アナタのことをもっと知りたいと思っていますよ」
『はは。全然 答えになっていませんよ、それ』
ナギは困り笑いを浮かべながら、ソーリーと謝罪した。そんな彼に、ひとつ提案を持ち掛ける。
『六弥さん。これから少し、時間ありませんか。私は1時間ほどスケジュールに余裕があるのですが。
良ければ、局内の茶店に付き合いません?』
「喜んで。アナタからのお誘いであれば、たとえ1分後に生放送の収録が待っているとしても、喜んで投げ出しましょう」
『それは投げ出しちゃ駄目ですね』
私達がやって来たのは、さきほど言った通りの喫茶店。どうやらお気に入りの席が空いていたようで、店員にお願いしてそこへ通してもらう。
この席は、店の最も奥まった場所にある。さらに他のテーブル群から分断されるように位置しており、離れ小島状態なのだ。
「良い席ですね」
『密談をするには、もってこいでしょう?』
「これからここで、アナタと密談を繰り広げるのだと思うと…胸が踊ります」
『密談は繰り広げるものじゃないですけどね』
注文は、2人とも紅茶にした。
到着したカップに口を付けるナギは、優雅で美しい。その洗礼された所作は、まるで本物の王子を思わせた。
そんな彼に見惚れるがあまり、自分の飲み物を口にするのも忘れてしまうほどだった。