第84章 その日が来る事を心待ちにしています
「たしかにアナタの言う通り、かつての美しい鳴き声を、カナリア自身は出せなくなったかもしれません。
しかしカナリアは、歌う事と同価値ともいえるものを見つけたのです。
それは…教え、支えること。
大切なベストフレンズの側で、そのカナリアは今も…幸せです。そして、その仲間達もそれは美しい鳴き声を、世の人々に聴かせ 楽しませていることを。
ワタシ、知っています」
『……六弥さん』
眩しくて、ナギの顔が直視出来ない。
弱点を突かれ、意表を突かれ、まごつく私の代わりに言葉を発してくれたナギは。
まるで、神が遣わした天からの使者のようだった。
「…詭弁です。
自分の夢を、他人に託すなんて。本物の才能を与えられた人間が、そんな甘い考えを持ち合わせているはずがありませんから」
「やはり、ワタシとアナタは分かり合えないようですね。水と油が混ざり合うことのないように。タイヨウとツキが出逢うことのないように。
きっと、永遠に相容れない存在なのでしょう」
「そのお考え自体には、共感出来るのですけどね」
変わらず人を食ったような笑顔を崩さない巳波。
今度は、ナギが私の腕を引いた。
「行きましょう、春人氏。彼と話していても時間のムダです。
意味もなく時計の秒針を眺めているほうが、まだ有意義というもの」
『待って下さい。六弥さん』
「WHY?」
苛立つナギに背を向けて、私は再び巳波に向き直る。
『棗さん。貴方、私に訊きたい事があると仰っていましたね。
私、まだ貴方に何の質問もされていません。
さぁ、どうぞ。どんなに強烈な問いにも答えて差し上げますよ。
私、粗雑な野鳥なんで。ストレスには強いんです』