第84章 その日が来る事を心待ちにしています
『なんでしょう。私に答えられる事でしたら、何でもどうぞ』
「ふふ、ありがとうございます」
小首を傾げると、彼の白銀の髪が 肩の上でさらりと揺れた。
この、一見して悪意のかけらも見受けられない綺麗な男の口から。果たしてどんな苛烈な言葉が飛び出してくるのやら…
身構える私に向かって投げられたのは、予想に反したものだった。
「これは、ほんの例え話なのですけれど…」
『はぁ』
「たいそう美しい声で鳴くカナリアが、いたとします」
『カナリア…は、まぁ、私も好きです』
話の要領がまだ掴めず、私は引き続き彼の言葉に耳を傾ける。
「しかしそのカナリアは、喉が潰れて…もう二度と、鳴く事が出来なくなってしまいました」
『……』
「可哀想ですよねぇ。誰よりも歌う事が好きで、その鳴き声は人々を魅了し、誰もがそのカナリアの声を聴きたいと願っているというのに。
カナリアは…簡単に死んでしまったんですから」
ここまで聞けば、馬鹿でも分かる。
彼の言うカナリアは… “ 私 ” だ。
『……私、は』
私は、死んでいない。
言いたい放題、言ってくれて。人の古傷に塩を塗って楽しんで。腹が立つったら、ない。
早く、何か言い返してやりたい。私だって、この男に一泡吹かせてやりたい。
でも、そう考えれば考えるほどに、言葉は喉の奥の方につっかえるのだ。
その時。私の代わりに、隣の男が口を開いた。
「カナリアは、死んでなどいません」
『!!』
「……」
私は弾かれるように、ナギの顔を見上げた。
彼の横顔は自信に満ちていて、なおも溌剌と、迷いなく言葉を紡ぐ。
それはまるで、魔法の言葉のように私を救う。