第84章 その日が来る事を心待ちにしています
「……中崎さんは、目と眉が比較的 近くにおありですね」
『は?』
「そういう方は、腹に一物を抱えている場合が多いのですよ」
『……』
「それから…口角が綺麗に上がる人は、明るく楽天的な性格といわれます。その一方で、話すときに口角が上下する人は虚言壁のある人に多いのだそうです」
繋げた手を、離したくなったのは言うまでもない。どうして初対面の人間に、突然 悪口を吐かれなくてはならないのだ。
私は半ばパニック状態に陥った。そして、縋るような瞳をナギに向ける。
「…今のは、棗氏 お得意の人相占いというやつです。悪シュミなこと、この上ない」
「あらあら。ご気分を害してしまいましたか?でしたら、すみません。私、悪趣味な趣向を持ち合わせているものですから」
『……いえ』
首を軽く振り、彼からすっと手を引いた。出来ることなら、もうこれ以上 話していたくない。
私はナギを連れ、この場を去ろうと試みる。
『六弥さん。少しお話ししたい事が。
それでは棗さん、いつか一緒にお仕事が出来る日を楽しみにしています』
「……えぇ。私も、その日が来る事を心待ちにしています」
ナギの腕をとって、歩き出す。やっと、巳波のねちっこいような視線から逃れられた。
彼に背を向けて初めて、私は安堵の溜息を吐いた。
しかし…巳波はまだ私を逃しはしなかった。
「あぁ、すみません。
私、あなたにお会いした際には、ぜひお伺いしたい事があるのを すっかり失念していました。
大変お急ぎのところ申し訳ありませんが、もう少しだけ私の無駄話にお付き合いいただけます?」
まるで子猫に話しかけるような甘ったるい声で、彼は私を呼び止めたのだ。