第84章 その日が来る事を心待ちにしています
歌番組、収録の為に訪れていた局内。リハーサルを危なげなく終え、本番までは待機と。いつもにも増して、順調に事は運んでいた。
TRIGGERメンバーを楽屋に残し、私はお手洗いへ行く為 廊下を歩いていた。用を足し、清々しい気分で彼らの元に戻る途中。見知った背中を見つけた。
私とは違う、天然物の金髪。そしてあの背格好。見間違えはない。彼は、ナギだ。珍しく、周りに他のメンバーや付き人の姿は見受けられない。
しかし。声を掛けるのは遠慮した。何故なら彼は、もう既に会話中だったからだ。相手の顔には、見覚えがあった。彼はたしか…
「その発言は誤解を —— 。 ノースメイアは」
「 —— 王室支持者が —— 。 いずれ主権は王家に —— 」
たしか名前は、棗巳波。私もテレビで、かつて彼が子役として出演するドラマを観た事がある。
彼とナギは知り合いだったのか。それに何か、立て込んだ話をしている様子。やはり、ここは声を掛けるタイミングではないだろう。
私はくるりと身を翻した。しかし…
「いいえ、この国は —— ません!」
再びピタリと、足を止めた。やはり、声を掛けようと思い直した。
だって…ナギの声が、震えていたから。
いつもの優雅で余裕を持った喋りをする彼が、怒り、悲しみ、動揺に 声を揺らしていたから。
部外者の私が、声を掛けるのは御門違いかもしれない。2人から邪魔者扱いされれば、後から謝れば良い。
今はとにかく、大切な友人の支えになりたい。もし彼が窮地に立たされているのだとしたら、役に立ちたい。