第83章 う〜〜ん、むにゃ…
私は、きっと狡い。
龍之介の覚悟を、知りたいが為に彼を傷付ける。
誰が、平気でいられるだろう。気にしないで、いられるだろう。
自分が敵意を向けられていると。怨まれていると知って。
誰が、知りたいと望むだろう。知りたくないに、決まっている。
自分が嫌われていることなど。反感を持たれているなど。
でも私は、TRIGGERのプロデューサーとして。確認しておかなければならない。
龍之介の、覚悟を。
その為なら、私は平気で言葉を紡ぐ。
貴方は、嫌われているんだよ。と。貴方を、潰したいと考える人がいるんだよ。と。
そういう人達と、向き合っていく覚悟は、出来ているのか。知っておかなければ。
たとえ、彼の心が傷付いてしまうとしても。
「エリからは、見えなかったと思うんだけど」
『え?あ…うん』
「ブラホワで、俺達がNO_MADを負かした時…本当に、凄い顔でこっちを睨み付けてたんだ」
『NO_MAD が?』
「ううん。狗丸トウマくんだけが」
龍之介が、くん と顔を上向けた。
「他のメンバーは “ まぁ しょうがない ” “ TRIGGER相手なら負けても仕方ない ” って顔をしてた。
でも、彼だけは違ったんだ。心の底から、悔しい!どうして負けた!もう一度やったら勝てる!って…そういう顔をしてたんだよね」
そうか。いま分かった。
どうして私が、NO_MADの中でトウマの事しか覚えていなかったのか。
彼だけが、TRIGGERに勝つ気でいたからだ。
彼だけが、本気で闘って、歌っていたからだ。
「あまりの気迫に、思わず目を逸らしそうになったんだけど。でも、俺は 彼の目を見ていなくちゃいけないと思った。逃げたら、駄目だと思った。
だって、彼の目が教えてくれたんだ。
俺が…俺達が進んでいくのは、こういう道なんだって」