第83章 う〜〜ん、むにゃ…
ようやくリビングに移動して、私達は落ち着いて話を始める。龍之介が入れてくれた冷たい烏龍茶を一気に飲み干して、空のグラスをテーブルに置いた。
『っは…美味しい』
「良かった。で?君とホテルに居たって人は、俺も知ってる人?」
『多分』
私は、事の仔細を説明する。なるべく漏らす事なく、全てを。偽りなく。
バーの前で、座り込むようにして眠る彼を見つけたところからだ。
聞き終わった龍之介は、静かに、悲しそうな目で呟いた。
「そうか。彼が…」
『龍、覚えてる?狗丸トウマさんのこと』
「うん、勿論。
最近、NO_MADが解散したって聞いたから。気にはなってたんだ。
でも彼なら、ずっと歌い続けてくれるって。勝手に信じてるよ」
『ん、そっか!』
龍之介が、自分と同じ考えを持っていると知れて、嬉しかった。
しかし。それとは別に、私には気掛かりな事がある。
『龍。さっき、狗丸さんが電話口で 何て言ってたか聞こえた?』
「ううん。ハッキリとは。
実は、男の声だ!って分かった瞬間、頭が真っ白になっちゃって…」
『うぅ。それはもう本当に、ごめんなさい…。ご心配をおかけしました』
「はは、もういいよ。事情は理解したし」
『ありがとう。
でね、話を戻すんだけど…狗丸さん、ほとんど意識がない状態なのに、ハッキリ言ったの。
“ TRIGGERは、俺が ぶっ潰す ” って』
「……」
私が告げると、龍之介は真剣な表情で黙り込んだ。
自身に向けられた、明確な敵意。憎悪に敵対心。彼らに対し そういう気持ちを持つのは何も、トウマが特別なわけじゃない。
華々しい道を、平然と歩いているように見えるTRIGGER。そんな彼らを憎む人は、少なからずいる。
だが。実際には その道が、茨の道である事を、見ている人は知らない。いや、知らなくても良いのだ。
悠然と、余裕綽々でステージに立っているように見えているのならば、それは事務所のイメージ操作が成功しているということ。
しかし、龍之介は、どう感じているのだろうか。
ライバルや一部の民衆から、妬みや反感を買っている事。
真剣な顔を俯かせる、目の前の男の気持ちが、私は知りたい。