第83章 う〜〜ん、むにゃ…
どうやってここまで帰って来たのかは、あんまり覚えていない。
トウマが起きた時の為に、スポーツドリンクとか二日酔いの薬とかを買いに行った事は覚えているのに。
ただ、耳にこびりついて離れない。龍之介の、底冷えした声が。
『た、ただいま…』
「おかえり」
玄関を開けて すぐに返事があったから驚いた。壁に手を這わせ、照明のスイッチを押す。
するとそこには、無表情で佇む龍之介の姿があった。
びっくりした。そんな言葉をギリギリ飲み込んで、まずは謝罪の言葉を口にする。
『ごめんね、心配かけちゃって!でも、あの、さっきも言ったみたいに、これには特殊な事情があって!
誓って浮気とかじゃないから!私は龍之介一筋だからっ!!』
どばっと一気に弁明して、そろりと龍之介の方を確認する。彼はただ押し黙って、冷たい目をして私を見下げていた。
『や、やっぱ…怒って、いらっしゃいますよね』
「……ふ、」
『え?』
「はは、嘘。嘘だよ、ごめん。怒ってない」
息を吐き出して笑う龍之介。
今の私は、さぞ間の抜けた顔をしていることだろう。そして、そんな顔を斜めに傾けて 恐る恐る問う。
『ほ、本当?』
「うん、本当に。
浮気なんて、疑ってないよ。エリが男の人とホテルにいたって、きっと何かどうしようもない理由があったんだろうなって。
それくらい、分かる」
『りゅ…龍〜〜っ!!』
「わっ」
私は龍之介に飛び付いて、その逞しい胸板に顔をぐりぐり押し付けた。
『ありがとう龍!好き、ほんと好き大好き〜!』
「あはは。可愛いなぁ。
ごめんね、ちょっと意地悪したくなっちゃったんだ。俺が本気で怒ってると思って、驚いた?」
『正直、暗い玄関で立ち尽くしてる無表情の龍を見た時は、ちょっとチビりそうになったよ』
この身体を龍之介が抱き締め返してくれていなかったら、私はブルブルと震え出していたかもしれない。
それくらい、さっきの彼を思い出すだけで寒くなってしまうのだった。