第83章 う〜〜ん、むにゃ…
『…ふふ、嬉しい。私も、龍に 会いたいな』
《 良かった。俺も、今すぐ会いたい。
迎えに行くよ。今、どこにいる? 》
『………』
男と、ホテルに居ます。
『む、迎えはいいよ!大丈夫、すぐ帰るから!』
《 …エリ? 》
『本当に、すぐ帰るよ!もうダッシュまでしちゃう!』
《 今って…1人、だよな? 》
『1人です!1人!龍、信じて!』
ついつい、必死になるあまり声を張り上げてしまう。必死過ぎて、失念してしまうほどに。背中で眠る、男の存在を。
「ぅ…り、龍…? 龍…之介?
っ…、TRIGGER…っ!く、…お前らは、俺が…ぜってーぶっ潰してやる!
…う〜〜ん、むにゃ…」
今の状況を、最悪。の2文字以外で言い表す術を、私は知らない。
《 ……ねぇ。いま、男の声がしなかった? 》
『した、かも しれない…』
《 エリ 》
『…はい』
《 隠し事をするな。とは、言わない。
でも。お願いだから、嘘だけは吐かないで 》
『うん…ごめん』
《 もう一度訊くよ?
いま、どこにいるんだ? 》
『……ホテル』
電話の向こうで、溜息を吐く気配がした。胸の中が、後悔と申し訳なさでいっぱいになる。
龍之介の言う通りだ。嘘なんて、吐くものではない。浅はかで、すぐにバレる嘘は 2人を傷付ける事しかしないのだから。
『ごめん。訳があって、こういう状況になってるんだけど…その、断じて、浮気、とかでは』
《 とにかく、まずは帰って来て。話はそれからだ 》
『…分かった。
龍、その…怒ってる?』
《 どうだろう。
俺が怒っているかどうかは 帰って来てから、君のその目で 確かめて 》
また後で、とか。気を付けてね、とか。そういう結びの言葉もないままに、通話は切られた。