第83章 う〜〜ん、むにゃ…
狗丸トウマ。NO_MADのメンバーだ。いや、正しくは “ 元 ” メンバー。つい先日、雑誌で解散したとの記事を読んだのだ。
彼の事は、私が一方的に認知していた。過去、ブラホワで彼の歌を聴いた。NO_MADはTRIGGERと闘い、そして敗れた。
結果こそ、彼らにとっては残念なものになったが。それでも私は、この男の歌と声をはっきりと記憶している。
それくらい、鮮烈なステージだったから。
同時に、彼なら大丈夫だと思った。今は勝者という表彰台に立たなくたって。いずれはきっと、TRIGGERを脅かすくらいの位置まで登ってくると。勝手に思ったのだ。
何故なら敗れた彼は、負け犬の目をしていなかったから。
『…はぁ。きっと、どこかでがむしゃらに努力して、歌って、這い上がってくると思ってたのになぁ。
こんなところで、呑んだくれてないでよね。
じゃないとTRIGGERは、もっともっと上に行っちゃうよ』
少年みたいに眠る、トウマの横顔。私がそう語りかけたのと、ほとんど同時。内ポケットの携帯電話が大きな声で鳴いた。
トウマの眉が、ピクリと反応する。せっかく落ち着いてベットに入ったというのに、起こしてしまっては可哀想だ。
私は急いで通話開始のボタンを押し、それを黙らせた。
『はい。中崎です』
《 え、もしもし?俺…だけど 》
『あっ、龍だったんだ』
急いで電話に出た為、かけてきた相手を確認していなかったのだ。だから、誰が相手でも良いように 春人として応対した。それに龍之介は面食らった様子。
《 あ。もしかして、今は電話まずい感じ? 》
『ううん。違うよ。大丈夫。ちょっと慌てて通話開始しちゃったから、名前見てなかっただけ』
《 慌てて? 》
『うん、あ。でも、もう平気。本当に』