第83章 う〜〜ん、むにゃ…
やって来たのは、ビジネスホテル。
酩酊状態の彼を彼を見て、受付の人間は渋い顔をしたものの、頼み込んでチェックインまで漕ぎ着けた。ラブホテルに行く羽目にならなくて良かったと安堵する。
ロビーの椅子に座らせていた彼を、また担ぎ上げる。そして、何とか勝ち取った部屋へと向かった。
到着後、直行したのはベット…ではなく、トイレだった。彼を便座の前へ下ろすと、私は髪をまとめ上げる。
『ふぅ…、はぁ、重かったぁ…
さて、と。大丈夫?聞こえてる?』
「っう…、き… もち、悪い」
『うん、そうだよね。だから早く、吐いちゃおうね』
酒を飲んで苦しい時の、一番の解決法。それは、飲んだ物を全部吐き出してしまうことだ。
私は重たい頭を支えて、便器へと近付ける。
しかし、彼は息を荒げ呻くだけで、なかなか事は上手く運ばない。
『…ま、仕方ないか。指、噛まないでね』
「っ、!?ぐ、…え、」
私は、彼の口中に指を2本突っ込んだ。舌の付け根を 軽く何度か刺激する。
決して、奥まで突っ込み過ぎないように。喉は、傷付けないように。最新の注意を払った。
何故なら彼は、歌う人だから。
「っげ、…げほ、ごほ!!」
『うん、そうそう。頑張れ、大丈夫だよ』
介助があってようやく、彼は苦しみの根源を吐き出した。勢いが止まれば、また指を挿入する。
彼の鋭い犬歯が、チクリと指に刺さって痛い。
「はぁ…、はぁっ、」
『うん。苦しいね。しんどいね。頑張れ。よしよし』
私はビクビクと跳ねる背中をさすり続ける。
朦朧とした彼は、便器に突っ伏し、その中へ両手を伸ばす。まるで中に吸い込まれて行きそうな勢いだ。
『あぁこらこら、そんな所に帰ろうとしないで。貴方の家は便器の中にはないよ』
私は強引に彼の体を、後ろへと引く。見ると、顔色が随分と良くなったようだ。
「は…、はぁ……」
『あ。よく考えたら私、洗ってもない手を突っ込んじゃってた。あはは。ごめんね。まぁでも、緊急事態だったってことで許してよね。
とにかく、よく頑張った。もう大丈夫かな?
ね。狗丸トウマ さん 』