第83章 う〜〜ん、むにゃ…
厳密に言えば、知り合いというのは嘘だ。
私は彼を知っているが、彼はきっと私を知らないから。一方的に認知しているだけの関係は、知り合いと呼ばないだろう。しかし、どうしても放ってはおけなかった。
『ぐ…。やっぱ流石に、重いな』
「は……、ぁ」
彼の為にも、このまま連れ回すのはやめた方が良いだろう。幸い、急性アルコール中毒の症状は引き起こしていないものの、かなり辛そうだ。
意識は変わらず、あるのかないのか分からない状態。呼気は強いアルコール臭を放ち、たまに聞こえる呻き声は苦しげだ。
『どうするかな…まさか、家に連れ帰る訳にもいかないし』
1人飲みに行った彼女が、べろべろに泥酔した男をお持ち帰りするなど、あってはならない。
まぁ、私の優しい彼氏ならばきっと笑顔で受け入れてくれるだろうが。それに、龍之介にとっても彼は、全く知らない人物という訳でもないし…
いやいや、やっぱり龍之介は巻き込まない。驚かせたくないし、それになりより…
かつて、自分が負かした男の顔を自宅で見たら、きっと 複雑な気持ちになるだろうから。
となれば、行くところは1つしかない。
私は、よいしょ と、彼の腕を 肩へ掛け直す。
密着した姿でホテル街へと向かう私達を、酔っ払い達が幾度と無く茶化し囃し立てた。