第83章 う〜〜ん、むにゃ…
『もしもーし、お兄さーん?大丈夫ですかー?』
「……ぅ、…あ」
駄目だ。意識が混濁しており、とてもじゃないが会話の出来る状態ではない。しかし駄目元で、声を掛け続ける。
『…可哀想に。連れの人に置いていかれたのかな。酷い人もいるね』
バーの店先で、壁に背を預け、ぐったりとした男。私が肩をトントンと叩くと、その男は朦朧とした意識のまま顔を上向けた。
その顔を見て、私は ぎょっと目を剥いた。
『…っ、うそ』
「おねぇちゃん、その人の知り合いかい?」
『え…、あ、いえ、知り合い…では、ないです』
バーの出入り口から顔を覗かせたのは、マスターらしき人物。迷惑そうな顔をして、男を見下ろした。
「知り合いじゃないのか、そうか…じゃあやっぱ警察呼ぶかな」
『警察、ですか』
「あぁ。いつまでもそこに居座られてちゃ、他の客が寄り付かねぇ。商売にならないんだ」
『あの。この人と一緒に、誰か飲んでなかったんですか?まさか、1人でこんなになるまで飲まないですよね』
「お連れさん、いたよ。でも 1時間くらい前に、ちょっと外の空気吸ってくるよ〜って言って そのまま消えちまった。金だけはテーブルに置いてってくれてたから助かったけど」
『……最低』
「はは。ま、見た目だけは悪くなかったけどな。目付きのキツイ、狐のような色男だったよ」
私が悪態をつくと、マスターは携帯を取り出し、さて警察警察 と画面をタップする。
気が付いたら、待って!と声を上げていた。
「??」
『あー…いや、なんと言うか…。やっぱり知り合いだった、と言いますか。
なので、この人の身柄は私が預かりますね』