第11章 本当に…ありがとう
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結局。八乙女事務所に一度寄る為の時間を全部使ってしまった。
まぁ元々、姉鷺には連絡してある。社長にも、私は今回の騒動を鎮静化させる為に動き回ると伝えてあるので、事実上の自由行動が許可されている。
私が出社して来なくても、誰も困る事にはならないだろう。
それにしても…
頭の中に、百から貰った言葉がまだ張り付いていた。
私はヘルメットの窓を開けて、赤信号を見上げた。
信号待ちの間に 彼の言葉を思い出してみる。
『……甘えても、頼っても…良い か』
思い出すだけのつもりが、いつの間にか口の中で呟いていた。
ハッキリ言って衝撃だった。そんな選択肢がある事に 言われて初めて気が付いたから。
今まで 苦しい事や辛い事があったら、自分の中で その思いをギュッと押し殺すか。
それか、解決の可能性が少しでもあれば 必死になってもがいて 足掻いて 1人で戦ってきた。
そうか…。助けてって…言ってみても良いのか。
子供が親から、生まれて初めて魔法のおまじないを教えてもらったみたいな。私の胸は、そんな温かい気持ちで満ち満ちていた。
そうこうしているうちに、目的地に到着した。バイクを停車させ、そのビルを見上げる。
そう。ここで今日、あのモデルが撮影を行うのだ。
バイクから降りて、身なりを整える。その時、ふと気が付いた。
『…そういえば、TRIGGERのメンバーには何も伝えてなかったな』
きっと彼らも、事態の行く先は常に気になっているだろうし。なにより報告連絡相談を怠るなと、楽がうるさい。
私はスマホを起動して、インスタントメッセンジャーであるラビチャを開く。
『……えっと』
何と文字を打とうか迷ったが、結局は 短くて簡単な言葉を選んで送信した。
そして、私は再度ビルを見上げて 自分に気合を入れる。
『…よし。いくか』