第82章 TRIGGERを独り占めだね
当然、私達が休むところに屋根などない。屋根どころか、壁もない。何もない。
いつもあって当たり前だった、雨風が凌げる家。その有り難みを、こんなにも痛感する日が来ようとは予想もしていなかった。
仕方なく、海から少し離れた場所を確保して。見つけた木陰の下に大きな葉っぱを幾枚も重ね、その上で就寝する事にした。
壁も扉もないのだから、全員で雑魚寝だ。
しばらく瞳を閉じるも、眠れない。疲れているはずなのに、一向に睡魔がやって来てくれないのだ。
顔を横に向ければ、ようやく見慣れてきた龍之介の寝顔があった。
私は彼らを起こさぬように、そっと寝床を抜け出した。
『……はぁ』
やって来たのは、ほど近い海岸。砂浜に腰を下ろして、膝を抱え海を眺める。
身震いする程に真っ暗な海が、巨大な月を飲み込んでいた。
そんな光景が恐ろしくなって、私は勢い良く体を後ろに倒す。ばすっと後ろ頭が砂浜に付く感触。目を開ければ、そこには、はっと息を飲む光景が広がっていた。
『…うわ。星、すご』
「綺麗だね」
『!!』
突如、愛しい人の声が降って来た。それは、煌めく星が広がる美しい景色よりも私の心を躍らせる。
『ごめん。起こしちゃった?』
「ううん。俺も、なんだか眠れなくてさ」
『そっか。やっぱり…不安で?』
「うーん…それもあるけど、なんだか興奮しちゃって」
龍之介は、私の隣に腰を落ち着けた。そして、さっき私がしてたみたいに仰向けになる。
それを見て、私も再び天を仰ぐ。
『たしかに…こんなとんでもシチュエーション、人生でそう何度も起こる事じゃないよね』
私がそう嘲笑的に言うと、龍之介は何故か嬉しそうに微笑んだ。