第82章 TRIGGERを独り占めだね
「…美味しい」
「あぁ…美味いな」
「うん。すごく美味しいよ」
『自然の恵みに感謝ですね』
「あと、ただの木の棒でこれを獲って来てくれた龍にも、感謝しないとね」
「だよな。サンキュ、龍」
「え、えへへ。それほどでも…」
食事を終えた私達は、焚き火を囲んで 静かに言葉を交わす。
「俺達…これから、どうなるんだろうな」
「消息不明のアイドルと、そのプロデューサー。って見出しの記事が出るのかもね」
「うーん…色んな人に心配かけちゃうんだろうな」
『まぁ、先を考えても仕方ないですよ。とりあえず私達は、生き抜く事だけを考えないと』
こんな状況だ。明るい話題を見繕うのは、やはり難しい。しかし、無理をして楽しげな雰囲気を作らなければ!とは思わなかった。
何故なら、彼らの表情は そう沈んではいなかったから。
『あ、そうだ。
私、さっき良いものを見つけたんですよ。楽、ちょっとそこに立ってもらえます?』
「??」
楽は、不思議そうな顔で言われた通りに腰を上げた。私は、さきほど拾ったブルーシートを巻き付ける。さらに、ロープでそれを固定。即席ではあるが、洋服のつもりだった。
『水着を洗っている間の、換えくらいにはなるでしょう?』
「はは。似合うよ、楽」
「いや、でも」
「うん。パリコレにも出れるってくらい、似合ってる」
「そ、そうか?」
2人から絶賛された楽は、次第に満更でもない顔に変わっていく。
「にしても、あんた意外と逞しいよな。遭難初日に、換えの服の心配か」
『備えあれば憂いなし。私のモットーですから』
「はは。ま、その図太さに今回は救われたのかもな。ありがとう、春人」
楽は、ブルーシートを腰に巻いた姿で笑った。