第82章 TRIGGERを独り占めだね
残念ながらというか、案の定というか、魚は一向にかからなかった。
「地味だな」
「地味だね」
『釣りって大体こんなものでしょう』
「いや、こう絵面が変わり映えしねぇのは…何かと良くないんじゃないかと思う」
「確かに。退屈かもしれないよね」
『絵面?退屈?』
またも彼らとの会話がすれ違う。こうまで噛み合わないと、なんだか寂しくなってくる。
「そういえば、龍は?」
「さっきまでその辺で潜ってたけど…そういや姿が見当たらねぇ。まさかあいつ、流されてたりしないよな」
私達は、慌てて海面に目を凝らす。すると…
探していた人物が、ザバァ!と海から顔を出した。そして、キラッキラの笑顔をこちらに向け、大きく手を振って叫ぶ。
「おーい!見て!いっぱい獲れたよ!」
見ると、龍之介の手には長い長い木の棒が握られている。そして、その棒にはなんと。立派な魚が何匹もブスブスと刺さっているではないか。
「おい。あいつまさか…」
「ただの棒で、魚を突いて獲ったんだろうね。ちょっと、信じられないけど…」
『海の男の名を、欲しいままにしていますね…』格好良すぎ
これ以上にない釣果で、私達は仮拠点に戻って来る。まぁ仮拠点と言っても、ただ座りやすい石を4つ並べただけの場所なのだが。
さて。これから火を起こして、獲れた魚を焼こう。きっと凄く美味しいと思う。意気揚々と、木の串に魚をぶっ刺していく。5匹目の魚を串に刺した時…。楽が絞り出すような声で訴える。
「もう…これぐらいで十分だろ」
『え?そうですか?でも早く食べちゃわないと腐りますよ』
「魚を何匹食うかって話はしてねぇんだよ!」
「楽が十分って言ってるのは、撮れ高の話。ちなみに、ボクもそう思うよ。龍がたくさん活躍してくれたし、もういいんじゃない?」
「たしかに…楽しいけど、もうそろそろ日も暮れちゃうから。
ね、春人くん」
私は、魚から顔を上げて3人を見つめる。そして、首を傾げた。
『さっきから、何を言ってるんですか?』