第81章 子供じゃないんだ、分かるだろ
「でも さっきの怯えた表情の方が、俺の好みだ」
『そうですか。それは、捻た好みをしていますね』
「…なんだ、余裕も戻っちまったみたいだな」
虎於は、面白くなさそうに酒を煽った。
龍之介のおかげで、いつもの調子を取り戻せた。もう二度と、彼に飲み込まれたりしない。私は1人密かに、決意を固める。
「あんたの答えをまだ聞いてなかった。
どうするんだ?今夜、俺の部屋に来るのか。来ないのか」
『…貴方に抱かれたら、私にどんなメリットがあるんですか?こちらの知りたい事を教えて下さるということ以外に』
「メリットか。あんた本当に、変なこだわりを持ってるな。そんなもん、全部捨てて楽しんじまえばいいのに」
相変わらず、彼の表情は自信に満ち満ちている。その顔はまるで、俺に抱いて貰えるのだからメリットしかないだろ。って顔だ。
「でもそうだな…ホテルのスイートでゆっくりした後、車と同じ値段のドレスを着て、ヘリからこの街を一望してみる。ってのはどうだ?」
『くだらない』ぼそ
「え?」
あまりのくだらなさに、ついついポロリと口から本音が溢れてしまった。
私は慌てて誤魔化すように、笑みを貼り付けた顔を上げる。
『はは。何でもないです』
「やっぱ笑ってもイイ女だ。それに、俺の誘いに即答でイエスと言わないなんて。あんた、面白い女だな」
『…すみません。今の、もう一度言ってもらえます?』
「笑うとイイ女だ」
『いえ、そっちの方ではなく、後ろの方です』
あんた面白い女だな。なんてワード、漫画やドラマ以外で初めて聞いた。もしかすると、生涯で二度と聞く事が叶わないかもしれない。
そう思った私は、記念にとばかりに もう一度同じ言葉をせがんだ。