第81章 子供じゃないんだ、分かるだろ
おそらく、私の出自はある程度知られていると見て間違いない。問題は、どのくらいの情報を。どこで、どうやって知り得たのか。ということだ。
私が彼の言葉に答えないでいると、虎於は駄目押しの好条件を重ねる。
「なぁ。やっぱり、俺の部屋に来いよ。
首を縦に振るだけでいい。そうすれば、さっきの質問の答えだけじゃなく、望む物をなんだってくれてやるから」
金持ちの御曹司という生き物は、皆こうなのだろうか。
高圧的で、自信家で、自分の思うがままに事が運ぶと思っている。正直、辟易の2文字に尽きる。
が、私にはこの男のご機嫌を取る必要がある。冷たくあしらって、無下には出来ない。
『はは。貴方こそ、少しがっつきすぎなのでは?』
「悪いな。なにせ俺に残された時間は、後10分もないんだ。その数分で、あんたを口説き落とさなきゃならねぇ。そりゃ、強引にもなるだろ?」
『ふふ、口説き落とす…ですか。御堂さんは、本当に面白い方ですね』
「面白い冗談を言ったつもりは毛頭ないけどな。
俺はただ、お前を今夜 世界で一番幸せな女にしてやる。そう言ってるだけだぜ?」
『……』
予想はしていた。彼は、私の性別に気付いている。おそらくは、それなりに信用のあるソースから得た情報だろう。この自信に満ち溢れた目が、そう物語っている。決して、山勘で口にしている訳ではない。
しかし、こちらもおいそれと認めてしまう訳にはいかない。これは、私の切り札でもあるのだから。
『私が女だと?ふふ。やっぱり御堂さんは、冗談を仰ってるんじゃないですか』
私がわざとらしく明るい声を出すと、彼は 歪に口角を上げた。