第81章 子供じゃないんだ、分かるだろ
心を平常に戻し、手元に来たグラスを軽く持ち上げる。そして、同じようにグラスを上げた虎於の方へ寄せる。
カチン、と2つを合わせる事なく、静かに乾杯は行われた。
「ポーラーショートカット、か。俺の誘いを断った割には、随分と意味深な注文をしたな」
『…心苦しいのですが、これは貴方を想って注文したカクテルではありませんよ』
私が口を付けたカクテル、ポーラーショートカットの酒言葉は “ 早く来て ”
『御堂さんこそ、アイオープナーとは…随分と情熱的ですね』
「そうだろ?今日、ここへ遅れる事になった龍之介には感謝してる」
虎於の持つアイオープナーの酒言葉は “ 運命の出逢い ”
私達は、水面下で互いの腹を探り合う。
「TRIGGERのプロデュースをやらされるようになって、もう長いのか?」
『2年と7ヶ月です。それが長いと感じるか、短いと感じるかは人それぞれで…』
待て。いま、彼は何と言った?
プロデュースを “ やらされる? ”
プロデュースを するようになって。ではなく?
どういうことだ。この男は、何を知っている?
少なくとも、私が八乙女プロに来たのは 自らの意思でない事は知っている。
「…言っとくが、俺は口を滑らした訳じゃない。ちょっとしたヒントをやったんだ。
今、想像してる通りだよ。俺は、あんたの事を知っていた。
それにしてもやっぱりお前、相当 頭が切れるな。わずかなヒントにすぐ様気付いた。
どうだ?八乙女プロを辞めて俺のとこに来ないか?悪いようにはしないと約束する」
『お褒め頂き、非常にありがたいのですが。うちを辞める気はありませんので。
それよりも、どうして私の情報を集めたのでしょう?』
「おいおい。そうがっつくなよ。
まぁ、あんたがこの後 俺の部屋に来るって言うなら、その質問に答えてやってもいい」