第81章 子供じゃないんだ、分かるだろ
いつもなら、迷わずこの条件に飛び付いたと思う。しかし、何故だろう。今の私は全身で感じ取った。この男と、2人きりになるべきではないと。
『…それは、どういう意味でしょう』
「子供じゃないんだ、分かるだろ。
“ そういう ” 意味だ」
『そうですか。しかし、どうでしょう。
“ そういう ” 事になる前に、もう少し互いを知ってみるというのは。
ひとまず、そちらのバーで私とお話しなぞに興じてみませんか?』
「なんだ、意外とガードが固いな。
…まぁいいか。とりあえずはその提案に乗ってやる」
本来であれば、私は条件を出せる立場にない。しかし虎於は乗ってきた。まるで、こういう駆け引きを楽しんでいるかのように。
その真意は計りかねるが、こういう言葉遊びを好む手合いの相手は得意だ。
この調子で、龍之介が来るまで乗り切ってみせる。
『私からこんな事を訊くのはおかしいかもしれませんが。どうして、提案を聞き入れて下さったのですか?』
「知りたい?」
『ぜひ』
「はは、あんた素直だな。いいぜ、教えてやる。
俺があの場で帰りもせず、あんたを部屋へ引っ張り込みもしなかったのは…
お前が言い訳をしなかったからだ」
『??』
「俺がTRIGGERのことを悪く言っても、あんたは表情ひとつ変えず、くだらない言い訳もしないで、ただ 申し訳ない。とだけ言った。
もし少しでも、事故の影響だ とかって漏らしてたら…俺の気は変わってたかもな」
『!!
貴方は、高速での事故をご存知だったのですね。そのせいで、十が遅れていることも』
「さぁ。どうだろうな」
私はこの時、この男の英明さに触れ、背中に冷たいものが走った。
同時に、こういう相手は敵に回すと厄介だと感じたのだった。