第81章 子供じゃないんだ、分かるだろ
赤褐色の髪に、立派な体躯。やけに良い身なりに悠々とした歩き姿。きっとこの人物こそ、御堂虎於に違いない。
バーへと入って行こうとする その男に声を掛ける。
『はじめまして。貴方は、御堂様でお間違いないですか?』
「そうだが…あんたは?」
ワイルドでいて、低くて甘い声が私の耳で揺らぐ。私は名刺を取り出し、名乗る。
『私は、本日 お約束をしております十龍之介の付添人で、中崎春人と申します』
「……へぇ」
虎於は、受け取った名刺を一瞥しただけで胸ポケットへしまった。そして、私の顔を真っ直ぐに見つめる。こちらが目を逸らしたくなるくらいに、じぃっと見つめ続ける。
「どうして俺が、御堂だと分かった?」
『歩き姿、纏う雰囲気で』
「はは。良い目と感覚を持ってるな」
虎於は愉快そうに目を細めた後、ところで…と呟いた。それから、何もない私の背後に視線をやって言葉を続ける。
「俺が約束をしてる、本人の姿が見当たらないようだが?」
『その事なのですが…申し訳ありません。うちの十が、少々遅れておりまして。不躾なお願いではございますが、15分ほどお待ち頂けないでしょうか』
私は、深々と頭を下げる。すぐに、その上から冷たい声が降ってくる。
「さすが天下のTRIGGER様だな。自分の方から会いたいと申し出ておいて、遅刻しても許されると思ってる」
『申し訳ございません』
「…ははん。なるほど、そうか。あんたは、俺にここで帰られちゃ困る、と」
『そうですね。正直に言って、それは滅茶苦茶困ります』
素直に言うと、彼は乾いた笑いを漏らす。
「そうだよな。でも、あんたはラッキーだ。待ってやってもいいぜ」
『本当ですか?』
「ただし、条件がある。
あんたが、俺の部屋に来ることだ」