第81章 子供じゃないんだ、分かるだろ
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龍之介の携帯から着信が入ったのは、18時30分のことだ。
《 ごめん!実は、今そっちに向かってるところなんだけど…高速で事故があったみたいで、渋滞に巻き込まれたんだ 》
『そうですか、それは仕方ないですね…事故ったのが貴方じゃなくて良かったです。
こっちのことは気にしないで、気を付けて向かって下さい』
《 …分かった。ごめんね、なるべく急いで行くから。多分15分くらいは遅れてしまうと思う 》
『了解です。待っていますね』
通話を終わらせ、顔を上げる。こうなっては仕方がない。龍之介の到着まで、私がどうにか場を繋ぐしかないだろう。
社長の口ぶりから察するに 今回の約束は、こちら側から頼み込んで叶ったもの。何があっても、反故にする訳にはいかない。社長の顔を潰すことになり、何より相手方にも失礼だ。
全身鏡で身なりをチェックして、気合いを入れる。そして、最上階にあるホテルバーへと向かう準備を整えた。
『……』
私は、バーへと続く廊下を行きながら思慮に耽る。
御堂虎於についての情報を集めようと、ネットをさらってみたのだが。彼について詳しく記載されたものは出てこなかった。
趣味趣向が何も分からない人間の相手をするのは憂鬱だ。しかし、なんとしても彼の興味を引かなければ。龍之介が来るまで、バーに留まっていてもらわなければ困る。
とにかく。出会い頭に、帰る!などと激怒される事だけは避けなければならない。
そんなことを考えていると。廊下の向こうから、やけに大きな人影がやって来る。
私は、すぐにピンと来た。