第81章 子供じゃないんだ、分かるだろ
—— 龍之介と沖縄の海 ——
ザブザブと海に入った龍之介は、慣れた手つきでパドリングを開始する。彼の長い手はぐんぐん水を掻き、あっという間に私達との距離は大きく開いた。
本来であれば、そこで良い波が来るのを待つのだろうが。今日はグットコンディションらしい。すぐさま荒ぶった波が、龍之介の元にやってくる。
彼はそれを見逃す事なく、標的と見定める。再びパドリングを行いその波を捉えた。
流れるような動作で、文字通り波に乗る。思っていたよりもスピードが速く、驚かされる。しかし、その危なげない一連の所作のおかげて、見ていて爽快であった。
そのまま、この波は終わる かと思われたが。龍之介はボードを急回転させて、再び波の荒れた部分へと戻って来た。これは、カットバックと呼ばれる技だ。綺麗に弧を描いたターンに、スタッフ達からも思わず感嘆の声が漏れる。
彼の華麗な技はまだ続く。
お次は、巻き始めた波頭でターンを決めた。これは、リッピングと呼ばれるアクションだ。鋭利なターンのおかげで、激しい水飛沫が辺りに散る。キラキラと光を集めて輝くそれは、龍之介の笑顔を引き立てていた。
そこへ、今までにない大きな波がやってくる。それは、さらに大きく成長し、見る見る内に龍之介を飲み込んだ。やがてカールする波の中に彼は消えてしまった。
あんな波に飲まれれば、大怪我をしてしまうかもしれない。姿が消えた事で不安が募り、私達は息を飲んだ。
しかし次の瞬間、ザバ!っと龍之介が飛び出して来た。信じられないことに、それは波に乗るというのを超えて、宙に浮かんでいた。
着地もビシッと決めた龍之介は、満足気に笑ってカメラに手を振った。