第81章 子供じゃないんだ、分かるだろ
2人を止めるため、立ち上がろうとする龍之介。私はその腕を、くんと引いた。
『2人のいざこざは、いつもの事でしょう。放置で大丈夫ですよ』
「うーん、でも…」
『行かないで、龍』
「う…っ」きゅん
腕を引き、上目遣いでそう囁くと、龍之介は小さく呻く。そして、ゆっくりとまた腰をシートに落ち着けた。
「ま、まぁ…喧嘩するほど仲が良い とも言うし、ね」
『そうです。それに今は、喧嘩の仲裁よりも私の手を握る任務の方が重要ですよ』
「あはは。確かにそうかもね」
天と楽には申し訳ないが、今この手を失うわけにはいかないのだ。
握っているだけで心を落ち着けてくれる龍之介の手は、私には必要不可欠なのだから。
「でも、誰かに手を握ってもらうと落ち着くの分かるな」
『はい。龍と天の2人に手を握ってて貰えるなんて、贅沢で最強で、すごく安心するんですよね』
「光栄だな。それにしても、楽は駄目?」
『いや、もう本当に駄目ですね。
楽と手を繋いでいると、落ち着くどころか…こう、心がザワザワするんですよ』
「ザワザワ…」
『あ、でも、ロス行きの時はお世話になりましたし、天も龍もCAさんもいない場合は、お願いしようと思います』
「俺と天がいなかったら、CAさんに頼むのか…」
『ふふ。私がこの顔で手を差し出し、しばらく手を繋いでいませんか?って囁いたら一発ですよ』
龍之介が苦笑いを浮かべるのと同時、後ろの席から にゅっと腕が伸びてくる。そして私の頭の両側に拳がセットされた。
「聞こえてんだよ!悪かったな!俺は従業員以下で!」
『いたたた』
楽は、私の頭にゴリゴリとげんこつを押し付けた。
「キミがいつもそういう事に手を使ってるから、キミの手からは安心感が遠ざかってるんじゃない?」
「う…」
天の冷静な分析に、楽はようやく大人しく席に着くのであった。