第81章 子供じゃないんだ、分かるだろ
『龍、龍は、こっちの手を握ってて下さい』
「分かった、任せて!」
『天は、反対の手を握って下さい』
「うん。いいよ」
「春人、俺は?なんなら足でも掴んでてやろうか」
『貴方は今すぐに座席に着いて、離陸の衝撃に備えて下さい。死にますよ』
「死なねぇよ…」座るけど
私がこういう状態に陥る場所は、決まっている。もうお分かりだろうが、ここはそう。飛行機の中である。機内である。
私は龍之介と天に、左手と右手を預けていた。2人とも嫌な顔ひとつせずに優しく握ってくれる。
彼らのおかげで 最初の山場、離陸を無事に乗り越える事が出来た。ほっと一息つく私に、楽は後ろの座席から声を掛ける。
「いい加減慣れたらどうなんだ。飛行機なんか、もう何回も乗ってんだから」
『それは無理な話です。
楽は、生きるか死ぬかの状況に慣れろって言うんですか』
「…生きるか死ぬか?」
『私にとっては、同じ事です。
まだ、鉄パイプを持った屈強な男に襲い掛かられた方がマシじゃないですか?』
「マシじゃねぇだろ」
呆れて物を言う楽。私を気遣う様子の龍之介。やがて天が口を開いた。
「プロデューサー。まともに楽の相手しなくていいよ。どうせ、自分だけ手を握る役に指名されなくて拗ねてるだけなんだから」
「拗ねてはねぇ!ただ、俺だけ除け者にされたみたいで面白くないだけだ!」
「人はそれを、拗ねてると言う」
「おいこら天!またお前は俺にばっか喧嘩売ってきやがって!今日という今日は、その喧嘩買ってやる!」
「あぁもう喧嘩しないで!」
またしても、2人の言い争いを龍之介が止めに入る構図となる。