第80章 嘘吐き
「知らなかったんだ。こんな自分。
今まで、誰かを独占したいとか、恋仲を誇示したいなんて思ったことなかったから。
エリと出逢ってから、新しい自分の連続だよ。もう、君と出逢う前の自分が思い出せないくらいに」
『それは良いことだね』
「そ、そう?ちょっと、格好悪いような気もするんだけどな。
エリは…こんな俺、嫌いじゃない?」
きっと、龍之介は勇気を振り絞って 私にこの質問を投げかけている。
そんな彼に、首を振って答える。
『その聞き方は、あまり良くないよ』
「じゃあ、どんな質問ならいい?」
『龍の心が、またモヤモヤして不安になって苦しくなる度、こう訊いて。
“ 俺の事、好き? ” って。
そしたら私は、毎回こう答えるよ。
“ 大好き。愛してる ” って』
ありったけの気持ちを込めて、私は愛を囁く。
そんな、たった一言、二言で、彼は100年間待ち望んだ答えを貰ったように、嬉しそうに微笑むのであった。
愛は、生き物にとって大切な、尊むべき感情だ。が、しかし。
愛は、決して綺麗なものだけで構築されているわけではない。
今回のように、憂心が募って不安定になったり。1人では抱え切れなくなった想いを、激しく相手にぶつけてしまう時もあるだろう。
それらは きっと、年齢などは関係ない。本気で誰かを愛していれば、誰しもが陥る有事。
しかし、それでも相手を大切に思いやって、2人で歩んでいくのだ。
醜い気持ちを相手に知られれば、拒絶されてしまうかもと恐怖したり。時には、意見の相違で ぶつかる時もあるかもしれない。
しかし。それでも2人、愛の言葉を貰ったり与えたりしながら、愛を育んでいくのだろう。
そうして進んだ道の先には、一体 何が待っているのか。
私は龍之介と一緒に、それを見てみたいと 心の底から願っている。