第80章 嘘吐き
帰宅後。熱いシャワーを浴びながら、1人思慮に耽る。内容は主に、環と龍之介のこと。
私はもう、環の想いには応えられない。本人に伝えるべきだろうか。
自分の感情を隠すのが苦手な環のことだ。もしかしたら、泣き出してしまうかもしれない。
いや…たとえそうだとしても、迷ってなどいられない。私が最優先で考えるべきは、恋人である龍之介の気持ちなのだから。
環と話をしてから、龍之介の様子がおかしい。口数が極端に減り、思い詰めた表情をしているのだ。
風呂から上がれば、彼とゆっくり話をしてみよう。
フェイスタオルを、ゆっくりと身体に滑らせる。モコモコ泡を身に纏うと、石鹸の香りが広がっていく。それらは私の心をリラックスさせた。
全身をくまなく洗い、さてシャワーで泡を落とそうとした その時だ。
突然、浴室の扉が開け放たれた。
驚いて目を向けると、そこには龍之介が立っていた。上下共に洋服を着込んでおり、とてもじゃないが これから風呂に入ろうという格好ではない。
『キャーーー!
とかって、言った方が良いシーン…かな?』
両腕で胸を隠し、椅子に腰掛けてから龍之介を見上げる。
冗談めかして問い掛けてみるも、彼の方には言葉も笑顔もない。
『あ!これって、今朝の仕返し?だったら謝るから!ご、ごめんね?』
「そうじゃ、ないんだ」
『龍…?どうしたの?もしかして、一緒に入りたいとか?
だったら、服脱いでこないと。そのままじゃ濡れちゃ』
龍之介は 服が濡れることなど厭わないで、私の目の前に跪く。そして私の口中に、その熱い舌をねじ込んだ。
『っ!?』
突如として与えられる、激しい烈情。
シャワーから出るお湯が、容赦なく龍之介の服を濡らしていく。濡れた肌にシャツが張り付く様は、ひどく扇情的であった。