第80章 嘘吐き
「そう!ないとは思うけど、この人が、2人のもんになっちゃわないように見張ってて欲しい!
ほんとは、俺がずっーと側にいて、守ってやりたいけどさ。それはやっぱ、無理だから…。だから!リュウ兄貴に頼みたいんだ。
お願いします!!」
「う、うーん…
どう返事をしたらいいか迷うけど…でも俺も、春人くんが他の誰かのものになっちゃったら困る、かな」
「だろ!?やった!やっぱリュウ兄貴は分かってくれると思ってたんだよな!」
「でも、環くんはどうして俺に頼もうと思ったの?」
「え?だって、リュウ兄貴は信用出来っから」
「…信用?」
龍之介の顔色が、にわかに曇る。
「おう!前に、中崎さんが言ってたし。
テレビではリュウ兄貴、エロエロビーストとか言われてっけど、ほんとはピュアピュアシープだって」
「……はは。そう。俺は、羊か」
環は、言いたい事を全て話し終わったのか、私の両耳を解放した。
「お願いきいてくれてサンキュ、リュウ兄貴!じゃあ俺、いおりん待たしてっから、もう行くな!
またなーー!」
ぶんぶんと両腕を高らかに上げ、スッキリとした表情で彼は去って行った。
無言で手を振り返していた龍之介。やがて、その腕を静かに下ろす。
彼から ただならぬ黒いオーラが出ているような気がして、私は恐る恐る様子を窺う。
『…龍?』
「……なんでもない。帰ろうか」
口元はたしかに笑っているのに、その目は全く笑ってなどいなかった。