第80章 嘘吐き
「じゃあ、俺達はそろそろ」
『そうですね。では、四葉さん。一織さん。また現場で』
別れの挨拶を交わしてから それぞれ反対方向に歩き出す。
私は、隣を歩く男の顔を盗み見た。
何かとトラブルの多い、デートと呼んで良いのかすら怪しいお出掛けとなってしまったが。龍之介の顔は晴れやかだった。
ほっと私が密かに息を吐いた、その時。後方から、おーいと掛け声が上がる。
2人揃って後ろを振り向くと、こちらへ駆け寄る環の姿があった。
「環くん?」
『どうしたんですか?』
「えっと…ちょっと、リュウの兄貴に話があって」
「俺に話?どうしたの?」
「ん…中崎さんは、耳塞いでて」
『え、何ですか。気になりますね』
私は環の言葉に従い、両耳に手を添える。
「ダメダメ!そんなんじゃ聞こえちゃうじゃん!もっと、ぎゅーって!」
『いたたた!』
環は、私の前に立つ。そして私の手の上に自らの手を重ね、ぎゅむっと力を込める。
これでは、2人の声が完全にシャットアウトされてしまうではないか。
それを確認した環は、ようやく本題に入る。
「リュウ兄貴。俺、大事なお願いがあるんだ。きいて、くれる?」
「うん。俺に出来る事なら、なんでも。話してくれる?」
「…中崎さんを、がっくんとてんてんから守って欲しい」
「えぇ!?ど、どういうこと?」
「えっと、上手く言えねんだけど…がっくん達は、なんていうか、中崎さんのこと、狙ってっから!」
「狙ってる…」