第79章 知るか!バーカ!
「〜〜っ、なんてことだ…!TRIGGERをスカウトしようとしたなんて、あの人に知れたら殺される!」
『……』
(あの人?)
「でも、このまま誰もスカウト出来ずに帰っても、どの道 殺される!」
「殺されるって…物騒だな。でも、ちょっと落ち着いて下さ」
「そうだ…あなた!中崎さん!」
『えっ、な、何ですか』
「プロデュースなんて辞めにして、うちでアイドルデビューしませんか!?」
『はぁ!?』
「そんなに綺麗な見た目をしてるんですから、すぐにアイドルになれます!あなたの顔と、ツクモの名前があれば…!」
男は、私に縋り付いて懇願する。しかし、私は冷静に男の手をどかした。
『お断りします。
事務所がどうとか、私の顔がどうとか、関係ないのですよ。私の前に、アイドルになる為の道は…続いていないので』
「春人くん…」
『節介を覚悟で言わせてもらえば、貴方は些か失礼ですよ。龍を口説いておいて、その舌の根も乾かぬ内に、代打のように私に声を掛けるなんて。スカウトマンとしての矜持はないのですか?
ツクモさんくらい大きな事務所なら、もう少し余裕を見せて下さいよ』
溜まっていた鬱憤が、ここにきて爆発してしまった。私のきつい言葉にも、男は一切 反論せず素直に頭を下げた。
そこへ、龍之介が間に割って入る。
「まぁまぁ春人くん。それくらいで。
この人にも、何か事情があるみたいだし…
あの。さっき、殺されるって仰ってましたよね。その…大丈夫ですか?もしかして、上司の人に脅されてるとか」
『龍』
私は龍之介の腕を引き、顔を見上げる。そして、首を左右に振った。
他事務所のやり方に、他事務所が深く首を突っ込むべきではない。
このスカウトマンに何かしらの事情があるのは明白だが、私達が口を出して良い話ではないのだ。
その空気を、男も察したのだろう。去り際に、力なく言葉を残す。
「あの、迷惑かけてしまって すみませんでした。最後に、お願いがあるんですが…
どうか、今日 お2人に自分が声を掛けてしまった事は…ここだけの話にしておいてもらえませんか」
「…はい、お約束します。
絶対に口外しないので、安心して下さい」