第79章 知るか!バーカ!
「君!!そこの背の大きな、黒髪の君!」
「え…俺、ですか?」
「そうだよ!そう!君!」
『何なんですか、貴方いきなり』
買い物袋を持ち、店を出たばかりの龍之介の腕を掴んだ男。それなりに良いスーツに身を包んでおり、歳の頃は30前半くらいだろうか。
突然の事で、反応するのが遅れてしまった。私は慌てて龍之介と男の間に体を入れる。
するとその男。あせあせ何を言うかと思えば、よりによってこんな言葉を吐き出した。
「君!アイドルに興味ない!?」
『……』あぁ
「……」スカウトか
目の前の男には申し訳ないが、こういった事態は さして珍しくない。
龍之介の存在感と、圧倒的なオーラに、勢いで声をかけてくるスカウトマンは後を絶たない。しかし、すぐに彼がTRIGGERの龍之介だと気付いて 気まずそうに頭を下げるのだ。
が…今日は、そう簡単に事は済まなかった。
何故ならTRIGGERの十龍之介は、私が封印してしまっているから。男は、気付かない。
「君なら、絶対すぐにトップアイドルになれるよ!オレが保証する!」
『ちょ』
「いや、俺は…なんていうかその」
「アイドル、興味ない!?」
「そんな事はあるはずないですけど!」
(だってアイドルだし!)
「ほらぁ!やっぱり興味あるんじゃない!だったら、ね!お願い!うちと契約しよう!お願いします!」
なんだろう。この、必死さは。まるで、有望な人材を連れて帰らないとクビでも切られんばかりの勢いではないか。
困惑する龍之介を置き去りにして、男の激しさはますます増していく。堪らず、私が助け舟を出す。
『名刺も渡さないでスカウトなんて、失礼でしょう。滅茶苦茶にもほどがありますよ』
「あ、あぁ、そうだった…ごめんなさい。オレは、こういう者です」
私と龍之介は 差し出された名刺を見て、声を揃えた。
「『…!! ツクモプロ!』」