第79章 知るか!バーカ!
『それだけ完璧な変装なら、まぁ龍の正体がバレる事はないと思っていましたが…。いかんせん初めての試みだったので、どうしても試験運用しておかないと不安で。
結果は上々ですので、次からはデートらしく、私は女の姿で貴方の隣に立ちますね』
「うーん。俺は、こうやって君と賑やかな場所を歩けるだけで嬉しいけどな。どんな格好をしていたって、構わないよ」
そう言って龍之介は、私の手を取った。
すると途端に、周りにいた人達が小さく声を上げる。それは、間違いなく歓喜の悲鳴であった。
『ちょっ、注目を集めてどうするんですか!今は男同士なんですよ…?手を繋ぐのは駄目です』
「駄目か」
『そんな子犬みたいな目をしても駄目ですよ』
「駄目か…」
『…次に2人で出掛ける時は、ずっと手を繋いでいましょうね』
私がそう告げると、彼は元気を取り戻した様子で頷いた。
「それにしても、本当にすごい。まさかこんなに気付かれないなんて」
龍之介は、自覚している通り身バレがしやすい。身長が高いのも起因しているが、他にも理由はある。
それは、オンオフの切り替えの問題。言うなれば、彼はプライベートでも常にオンの状態なのだ。エロエロビーストのオーラはなりを潜めるものの、その身から溢れ出る芸能人オーラは垂れ流し。
その点、天は上手い。カメラの前では眩いばかりの彼だが、一歩 街へ繰り出せば、見事に人混みに溶け込むのだ。その器用さが、龍之介にはない。
『芸能人によく遭遇する人。芸能人にほとんど遭遇しない人。二者の違いって分かります?』
「なんだろう…運?」
『残念。
正解は、前者の観察眼が優れてる。でした。つまり、後者も芸能人に遭遇自体はしているんですよ。ただ、本人が気付いていないだけで』
「えーと、つまり?」
『私の変身テクを駆使して、観察眼の優れた一般人をも搔い潜っている。それこそが、いま貴方が身バレしていない最大の理由です』