第79章 知るか!バーカ!
軽く汗を流した後、龍之介は一足先にシャワーを浴びに風呂場へと消えた。
そのグットサウンドを聞きながら、私は頭を悩ませる。
龍之介は、私が彼女らしくなくても問題ないと言ってくれた。しかし、それではこちらの面目が立たない。
彼が美味しい料理を作ってくれて、私を幸せな気持ちにしてくれるように。私だって、彼を幸せにしてあげたい。
幸せにするには、まず龍之介の望みを知らなければ。彼は、一体どんな事を私に望むのだろうか。
『ねぇ龍』
「うわぁ!ちょ、なんで来ちゃうの!し、閉めて閉めて!」
絶賛シャワー中だった龍之介は、突如として扉を開かれ動揺している。
咄嗟に背中を向けそうになった彼の腕を取り、こちらへと向かせる。
『龍の望みって何?』
「君がシャワールームから出てくれること」
『わぁい、お手軽ー!
じゃ なくて。それ以外で』
真剣な瞳で見上げられ、諦めたように溜息を吐いた龍之介。
水の滴る髪を 後ろへまとめて流し、うーんと唸る。そして、顎に手をやって長考に入った。
「うーーん…
ごめん。考えてみたけど、やっぱり今すぐには出てこないかも」
『…そっか』
「そんな顔しないで。後で、ゆっくり考えるから」
『本当に?』
「考えるよ。だからほら、とりあえず出てってくれないかな…」
『……龍』
「うん?」
『オールバック、格好良いね』
「そうか、出て行く気ないんだな。
それならそれで、俺にも考えがあるぞ」
彼の腕が私の腰に回り、そのまま強く引き寄せられる。急に距離がグっと詰まり、彼の素肌が私の洋服を濡らす。
驚いて 思わず顔を見上げると、その顎先をすくわれた。そして、さらにくいっと私の顔を上向きにする。
「いけない子だ。こんなふうに俺を誘うなんて。でもいいよ。お望み通り、嫌ってほど 構ってあげる」
猛った瞳がギラリと私を覗き込む。背の高い彼がこちらを見下ろせば、濡れた髪から雫が落ちて来る。
『……ふふ』
「ちょっと、笑わないで!せっかく恥ずかしいの我慢してたのに」
『あはは、ごめん。格好良すぎて、つい!
じゃあ外に出てるね。お邪魔しました』
私はするりと龍之介の捕縛から抜けて、浴室を後にした。
「…はぁ。
格好良すぎて、つい笑っちゃうって…そんな事あるのかな」