第79章 知るか!バーカ!
食後の運動にと、私達はランニングに繰り出した。森林公園をぐるりとして、緑の匂いを感じながら走る。いつもと同じ、決まったコースだ。
「…今日は、いつもよりペース早くない?俺の、気のせいかな」
『うんっと…気のせいじゃ、ない』
いつもよりも上がった息を落ち着けながら、私は目深に被ったフードをさらに深く被り直した。
『ちょっと…自分を追い込んでやりたい気分、だから』
「はは。分かるよ。うん、そういう時もあるある!」
たまには良い彼女をやってみようと気合を入れたのも束の間、まさか二度寝してしまうなんて。不甲斐ない自分を、根本から鍛え直したい気分なのだ。
「今日ね、エリ、すごく幸せそうに寝てたんだよ。もしかして、良い夢でも見れた?」
『…夢の私の方が、現実の私よりも頑張ってた』
「??」
隣で首を傾げる龍之介に、私は夢の内容を説明する。そして、本当なら今日は、私の方が早起きをして 龍之介の為に朝食を用意したかったと伝えた。
「え、なんだ!そんなことか」
『そんなことって!』
「あはは。ごめんね。あまりに微笑ましい事を気にしてたんだなと思って」
『…早起きも出来なくて、彼氏に朝食作らせるような彼女、龍は嫌にならない?』
「なるわけないだろう?俺は別に、美味しいご飯を作って欲しいからエリと付き合ったわけじゃないから」
『そうは言っても…』
「なんなら、俺は君の為に料理をするのが好きだよ。好きな人が自分の作った物を美味しそうに食べてる姿を見ると、俺の方が幸せな気分になれるから」
『それは……WIN-WINだね』
「はは!だろう?」
いやいや、本当にそれで良いのだろうか。彼女としてのアイデンティティを、失っているのでは?