第78章 私…彼氏が出来た
『うわ…ごっめん龍、結局作らせちゃって!』
「ううん、全然。俺が勝手に用意しただけだから。さ、どうぞ。冷めないうちに」
『ありがとう。いただきます!』
テーブルに並ぶのは、野菜中心の定食。余り物の食材でぱぱっと手早く作れてしまう龍之介は、本当に凄い。そして、味も勿論 完璧なのだから頭が上がらない。
『相変わらず美味しい!龍の手料理が食べられる私は、ほんと幸せ者だよ』
「はは。大袈裟だな」
パクつく私を、龍之介は対面に座ってじっと見つめている。今のうちに、彼も入浴を済ませれば良いのにと思っていたところに。龍之介は気遣うように言った。
「エリ、何か…あった?」
『……龍の方こそ』
私達は、恋人という関係になってからは間もないが。共に過ごして来た時間は決して短くない。
アイドルと、そのプロデューサーとして。普通の人からは考えられないような苦節を共に乗り越えて来たのである。
従って、互いの事はそれなりに理解している。相手の些細な変化に目敏く気付き、何かあったのだろうな。と悟ってしまうほどに。
「……」
(エリは今日、誰と会って来たんだろう)
『……』
(龍は今日、楽と何の話して来たんだろう)
きっと、龍之介は今日、楽とそれなりに重たい話をして来たのだろう。
憶測は出来るものの、わざわざそれを問い質したりはしない。
龍之介の方も、きっと私が今日誰と会ったのかを気にしているはずだ。
しかし彼とて、わざわざそれを問い質したりはしない。
私達は思った事を全て口に出すほどに 子供ではないのだ。