第78章 私…彼氏が出来た
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「『あ』」
私と龍之介は 互いの姿を見つけるなり、揃って言った。
ちょうど帰りが重なって、ばったり玄関先で鉢合わせたのだ。私が鍵を手にしているのを見て、彼の方は持っていた鍵をポケットにしまった。
「おかえり」
『ただいま。龍もおかえりなさい』
「うん。ただいま」
私はキーを鍵穴に差し込み、オートロックを解除する。私達がこんなふうに揃って同じ家へと帰れるのは、当然 私が春人の姿であるからだ。
女の格好であったなら、龍之介と同じタイミングで玄関をくぐる事など出来るはずがない。
2人してエレベーターへと乗り込み、他愛のない会話に興じてみたりする。
『早かったね。楽と飲むって言ってたから、もっと遅くなるかと思ってた』
「明日もあるから。早めに解散したんだ」
『わぁ 偉い!
あ、そうだ。冷蔵庫の中って、何か残ってたっけ?』
「うん。たしか昨日の残りの食材が…
って、もしかしてエリ お腹空いてる?食べて来なかったの?」
『実はそう。お腹空いちゃった』
「じゃあ俺が、何か作ってあげる」
『いいよ!大丈夫。自分で何か適当に作るから』
何かを適当に作る。それが一番苦手なくせに、私は龍之介の申し出を断った。
お酒を飲んで帰って来た彼に、少しでも無理をさせたくなかったから。
私は、この家に帰って来たらまず最初にする事がある。それは、入浴だ。風呂に入って男装を解き、女に戻る。それが最近の習慣となっていた。
いつも通りに入浴を済ませ、さっぱりとした心地でリビングに戻ると、なんとそこには美味しそうな食事が用意されていた。