第78章 私…彼氏が出来た
【side 八乙女楽】
20時過ぎ。俺と龍之介は、バーLonghi'sに赴いていた。次の日がオフでもないのに、飲みに誘ってくるのは珍しい。
早速、隣に座った龍之介が口を開いた。
「ごめんね、明日も早いのに付き合ってもらっちゃって」
「んなこと気にすんなよ。水臭いじゃねぇか」
琥珀色の液体が入ったグラスに、視線を落とす龍之介。その瞳は、どこか罪悪感に濡れている。
俺の気のせいかもしれないが、最近こいつは よくこの顔をしていた。そして、その申し訳無さそうな目で俺を見つめるのだ。
今日、呼び出しを受けた瞬間に分かった。
やっと、その理由を教えてもらえるのだと。
どうして龍之介が、俺にそんな瞳を向けるのかを。
「楽に、言っておきたい事があってさ」
「おう。どうした、改まって」
「…実は、俺…
か、彼女が 出来たんだ」
「か…彼女…って、恋人?」
「うん」
「そうか……そうか!なんだよ!すげぇ良いニュースじゃねぇか!深刻そうな顔してるから、何を言われるかってドキドキしてたんだぜ!
良かったな、龍。おめでとう」
俺がグラスを持ち上げると、龍之介は遠慮がちに自分のグラスを合わせた。
カチンという艶っぽい色が、静かに祝福の音色を奏でる。
「ありがとう…楽には、絶対に言っておかなくちゃと 思って」
「それはさっきも聞いた。
ははっ。でも本当に嬉しいよ。お前は良い男だからな。女の方が放っておかないって、ずっと思ってたんだ」
「……楽」
「で?メディア用の、ピカピカに包装されたTRIGGERの十龍之介じゃなくて。本当の龍を知った上で、一緒に居たいって思ってくれるような相手なんだろうな?」
「あぁ…うん」
俺が饒舌なのは、断じて酒のせいではない。大切な仲間に、大切な人が出来た喜びからである。
が。そんな俺に対し、龍之介は終始浮かない顔をしているのだった。