第78章 私…彼氏が出来た
もうこれ以上は、大和とこの密室にいる事は出来ない。
『彼氏が出来たから、大和とのセフレ関係は終わり。それで、私の話は全部』
「あぁそうかよ」
『大和は、ないの?私に話しておかなくちゃいけないこと』
「…ねぇな。話したい事なんて」
『本当に?』
私は知っている。言いたい事を、言えないまま胸の中にしまっておく事のしんどさを。
あの時、告げておけばよかった。
あの時、伝えておけばよかった。
その想いは 何年も何年も、ズルズルと尾を引いて。時間が経てば経つほど自分の心を締め付けるのだ。
私の事を好きになってくれた、大和。
器用そうに見えて、実は不器用で。冷たい態度を取っていても、実は心根の優しい大和。
そんな彼の胸に、抜けない棘を残して去りたくはない。
『もし言いたい事、話したい事があるなら、全部いま聞くから。だから、大和が後悔しないようにして欲しい』
「……」
大和は、沈黙を貫いた。
もうこれ以上は、私に出来ることはない。俯く大和をただ見つめて、痛む心に耐えるだけ。
仕方なく、運転席へと戻る為に スライドドアの取っ手に手を掛ける。
その時。彼は去ろうとする私の腕を掴んだ。そして、今にも消え入りそうな声を上げる。
「っく…好き だよ。
俺は、あんたのこと、本気で…好きだ」
絞り出されるようにして落とされた、小さな小さなその告白に。私は何を返せば良いのか。この震える肩に、手を置いてやる事も出来ない。
ありがとう。ごめんなさい。
どちらを選ぶか散々迷ってから、私はようやく 前者を口にした。