第78章 私…彼氏が出来た
私は、話がしやすいよう運転席ではなく後部座席に座る。大和は隣の席に腰を下ろして、愉快そうに告げる。
「車内で話たいって言われた時から考えてたんだけど…もしかして “ 今日は車の中で… ” とかって、そういう趣向?
やだ、お兄さん興奮しちゃう」
『誰がアイドルにカーセックスを求めますか』
そう敬語で言ってから思い直す。さきほど大和は、敬語を使われるのが気に入らないと言っていた。
それに、ここならもう他人の耳はない。敬語を使う必要性もないのだ。
「これだけスモークかかってたら、外から顔なんて見えないだろ?まぁ多少は揺れるだろうから、中で何が行われてるかは筒抜けだろうけどな」
『大和』
「なに?トライしてみる気になった?」
『私が貴方に敬語を使ってたのは、第三者の目があるからだよ。残念ながら今の私も、IDOLiSH7やTRIGGER程ではないにしろ それなりの認知度があるから。他社のプロデューサーである私とIDOLiSH7のメンバーが仲良さげにお喋りしてたら、気を良くしない人もいるかもしれないでしょ』
警戒し過ぎかもしれないが、熱心な大和ファンは不快に思うかも。ライバル事務所に所属する私は、目障りだと思われても仕方がないだろう。
説明を終えた私に、大和は感嘆の声を漏らす。
「へぇ。元々あんたは、そういう類の事に気を回す人間だったけど。ますます拍車がかかったみたいだな。
どうしたんだ?何か、警戒心を強めなきゃならないような事態に陥ったのか?」
『…さすが大和。相変わらず鋭いね』
今度は、こちらの方が感嘆の声を漏らすのだった。