第78章 私…彼氏が出来た
私には、電話をかけてきた主がすぐに分かった。万理に促され、ディスプレイを確認する。そこには、やはり大和の名前が映し出されていた。
鳴り続けるコール。時刻は21時30分。きっと大和は、寮の中で私の連絡待っていたのだろう。しかし、万理の前で大和からの電話に出てもいいものか。
もし出てしまえば、万理はきっと察する。私が会いに来たのは、二階堂大和であるということ。大和のプライベートを守る為にも、出来るならば知られない方が良いと思う。
「電話、出てあげれば?俺はべつに構わないぞ?これから君が逢引する相手が、メンバーの誰であろうと」
『………後ですぐ折り返すから、今は出な」
「こら。普通そこは出るところでしょ。あーぁ。お兄さん傷付いちゃったなー」
『!!』
「大和くん!」
私と万理の目前には、携帯電話を耳に当てる大和の姿があった。じとっと湿った視線をこちらに投げている。
ここに本人が姿を現したということは、万理に私との密会がバレようが構わないと思っていたということ。なら、ウダウダ考えずに電話に出れば良かった。
私は、手元の携帯の着信音を止める。それを受け、大和も耳に当てていた携帯をポケットにしまった。
『…目の前にいるなら、わざわざ電話なんてせず声をかけてくれれば良かったじゃないですか』
「いやいや、声なんてかける隙なかったっての。お2人さん、アツアツなんだもん」
「あはは。大和くん、べつに俺と彼はそんな関係じゃ」
「万理さん。残念ながら、この人が “ 彼 ” じゃなくて “ 彼女 ” だってことぐらい俺でも知ってるんで」
顔は、笑っている。たしかに笑顔であるのに…。大和の声からは、トゲトゲしさが発せられていた。
「あと申し訳ないんですけど、彼女は俺と先約があるんですよね。
ってなわけでー…お姫様は、借りてきます」
『ちょ、待っ』
大和は私の腕を掴むと、そのまま歩き出してしまう。どんどん距離の開く万理を、私は限界まで見つめていた。
「はぁ…なるほどなぁ。約束の相手は大和くんだったか。ま、彼なら大丈夫、かな。
どれだけ酷な告白をされたとしても、仕事に引きずっちゃう事態にはならないだろ」