第78章 私…彼氏が出来た
夜深いこの時間。コンビニの明かりが、煌々と辺りを照らしている。
ジンジャエールを手にした私。缶コーヒーを手にした万理。2人して、そんないやに明るいコンビニを背に立ち話を始める。
『ありがとう。いただきます』
「どういたしまして。どうぞ」
隣から、缶のタブを引く音が聞こえた。私も、ペットボトルのキャップを捻る。
「もしかして、うちの子達の誰かと約束してる?」
『!!
なんで、分かったの』
「確証はないよ。なんとなく」
『まぁ…正解』
「まったく。悪いお姉さんだなぁ。あの子達は基本的に皆んな幼気なんだから。興味本位で手を出してくれるなよ?」
ぐうの音も出なくて、沈黙を誤魔化す為に飲み物を煽る。
「約束の相手、環くん?」
『残念。それは不正解。どうしてタマちゃんだと思ったの?』
「思い出したんだよ。確か、昔言ってただろ。孤児院で、ある兄弟と仲良くなったって。
今から思えば、それって環くんと、その妹さんの事だったんじゃないか?」
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私もゆっくりと記憶の糸を手繰る。放課後に、万理とよく通ったファミリーレストラン。そこでの会話。あまりの懐かしさに、目元が1人でに綻んだ。
『…そう。話したね、そんな事も』
「懐かしいよな」
『うん。懐かしいね』
隣から聞こえてくるのは、あの時よりも低くて柔らかい声。耳元で揺らぐ その心地の良い音色に、思わず瞳を閉じる。
私には、彼から癒しをもらう資格など、無いというのに。
『万理』
「うん?」
『曲、ありがとう。“ 桜舞う ” 良い曲だったし、嬉しかったよ。
私達が出会った、あの春を思い出した。万理の気持ち、私…ちゃんと受け取ったよ』
「…そっか」
『それでね、私…彼氏が出来た』
振った相手に、いつまでも自分を好きでいてもらおうなどと。そんな都合の良い考え、私は持ち合わせていない。