第77章 ぃやーぬくとぅ かなさいびーん!!
『あー、面白かった!ね、龍』
「う、うん…面白かった…と、思う」
『結構スリリングなシーンも多くて、全身に力が入っちゃった!明日、筋肉痛になっちゃったりして』
「それには凄く共感出来るよ」
もっとも俺の場合は、映画にのめり込んだ事が理由ではないのだが…
とにかく、少しリラックスしないと。さっきから緊張しっぱなしだ。
意識して肩の力を抜いた時、ちょうどエンドロールが終わる。俺は手元のリモコンを使って、DVDデッキの電源を切った。
すぐさま映像は、地上波へと切り替わる。するとテレビ画面から、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
何を隠そう、その声の主は…俺自身。
《 無防備な女だな。
俺の部屋に入って来るなんて 》
画面の中の俺は、前髪を搔き上げながら言った。よりにもよってこんなタイミングで、ドラマの再放送にぶち当たらなくても良いではないか…!
「お、おお思ってない!そんな事、思ってないから!これはあくまで、ドラマの中の台詞であって…!」
『…ふぅん。思ってない、ね。
そっかぁ。私、無防備な女には、なりきれてなかったか…。それは、残念』
その言い回しの、意味するところは?
まるで、無防備な女に なりたかったみたいじゃないか。
「…はぁ。もう降参。俺には、君が何を考えているのか全く分からないよ。
今日は、ずっとエリに振り回されっぱなしだ」
『振り回されてくれたんだ』
「振り回され過ぎて、クラクラしちゃうくらいにね。
だって、なんだか今日の君はいつもと違うから」
『いつもと違う?』
「うん。違うよ。今日のエリはまるで…」
隣に座る彼女は体ごとこちらに向けて、俺の顔を食い入るように見つめている。
そんなエリの顔を、直視する勇気は俺にはない。それでも、全身から なけなしの勇気を搔き集める。
そして、なんとか言葉を作る。
「まるで…俺の、彼女 みたい」
『……』
言った。言った。
意を決して投げ掛けた俺の言葉に、彼女は何を返す?
うるさいくらいに鳴り響く自分の心臓の音を聞きながら、俺はエリの言葉を待った。
『ふふ。龍が、そう意識してくれたんなら…今日ここに、来た甲斐があったかな』
彼女は、妖しくその瞳を細めた。