第77章 ぃやーぬくとぅ かなさいびーん!!
本編が再生されて、30分ほどが過ぎただろうか。
先輩が出演している映画を前に、こんな事を言ってしまうのは失礼に当たるかもしれない。が、正直 内容が全然 頭に入って来ないのだ。
それもそうだろう。すぐ隣に、好きな人がいるのだから。簡単に肩を抱ける距離。手を握れる距離。
彼女の隣で映画を観ているのが、俺ではなく楽だったなら…きっと、それらを実行に移してしまえるのではないだろうか。
そう考えると、途端に自分が情け無い生き物のように感じられた。
ふぅ。と、エリには聞こえないくらいの小さな溜息を吐き出した。
その刹那、ぽす。と 俺の腕辺りに、彼女の頭がもたれかかる。
すぐに分かった。
彼女が、寝落ちしてしまったのだと。
無理もないだろう。俺達と同等か、もしくはそれ以上 働き詰めの彼女だ。きっと疲れているに違いない。
それなのに、俺に付き合いジムで運動をして、料理を振舞ってくれて、掃除まで手伝ってくれたのだ。
どうか、ゆっくり休んで欲しい。当たり前のように、そんな考えに落ち着いた。
エリを起こさないよう、ブランケットをかけてやろう。その前に…ほんの少しだけ、彼女の寝顔を見たいと思った。
寝息を立てて休むエリの寝顔を、頭の中で思い描いて。俺はチラリと彼女の方を盗み見る。
「………」
(え…っ)
起きている。エリは普通に起きている。ばっちりと目が開いている!
《 キャーーー! 》
画面の中。ヒロインが、怪我をした千を発見して叫ぶシーンが流れた。
叫びたいのは俺の方だ!
てっきり、寝落ちしてしまったからこちらに倒れて来たと思ったのに。エリは普通に映画を観続けている。
と、いうことは…どういうことだ?
彼女はわざと、俺にもたれかかったというのか?
もう、頭はとっくにキャパオーバーだ。
体に無駄な力が入ってしまって、身体中がバキバキだった。もしかしたら明日は、全身が筋肉痛になっているかもしれない…