第77章 ぃやーぬくとぅ かなさいびーん!!
『トイレもお風呂も、掃除の必要ないくらい綺麗だった…』
「そ、そう?」
『うん。長い髪の毛とか、落ちてなかった』
「そうだと思うよ。女の人を家に呼ぶ事なんてないから」
『へへ、そっか』
当然のように俺が答えると、エリは歯を見せて笑った。
掃除や片付けがひと段落すると、彼女はおもむろに自分の鞄を持ってやって来た。そして、その中に手を差し入れる。
『今日、龍に見て欲しい物があって。持って来たんだけど…』
「な、なんだろう。でも、心の準備なら掃除をしながら済ませたから…
うん!何でも来い!」
『そっか』心の準備?
ガサゴソと鞄をまさぐる彼女。
じゃーん!と取り出したのは、DVDのようだった。てっきり紙ベースの資料か何かだと思っていた俺は、それに釘付けになる。
まさか、話したい内容を映像にまとめてあるのだろうか。一見 有り得なさそう事も、彼女ならば有り得るだろう…
しかし どうやらそのDVDは、彼女自作の物ではないようだ。パッケージには、見慣れた人物がいたから。
「それは…、千さん?」
『そう!千 主演の恋愛映画!
千って、今はもう恋愛物には一切出てないでしょう?だから貴重だよ。一緒に観ようと思って持って来た』
その綻んだ顔を向けられると、拍子抜けした表情など見せられない。
嫌な高鳴りをする心臓を抑え付けて、俺は笑顔で頷いた。
ソファに並んで、目の前のテレビに視線をやる。本編が始まる前の予告には、懐かしいタイトルが目白押しだった。
2人して、これは観た。とか、これは面白そうだ。とか、口々に感想を言い合う。
あぁ。なんて穏やかで、幸せな時間なのだろう。