第77章 ぃやーぬくとぅ かなさいびーん!!
とにかく、昼食を作ろう。料理でもすれば、気持ちも落ち着くはずだ。
フラフラと冷蔵庫へ向かい、扉を開く。すぐにヒンヤリとした空気が俺を包み、熱くなった顔も冷えていく気がした。
『私が作るって言ってるのに』
「うわ!」
俺の背中にピタリと体を寄せ、横から冷蔵庫の中身を一緒に覗き込んだエリ。
拗ねたような声を出した彼女だったが、それもほんの一瞬で。すぐに表情を明るくする。
『わぁ。勝手に中見てごめんだけど、冷蔵庫の中まで綺麗。龍はほんと、きっちりしてるね』
「そ、そうでもないと思うけど…」
背中に張り付く感触を、体が勝手にもっともっととせがんだ。再び煩悩が支配しそうになる頭を、左右に振る。
『いや、綺麗だって。うちとは大違い』
「はは。エリは、掃除とか整理整頓は苦手?
でも、デスクの上はいつ見ても綺麗に片付けられてるじゃないか」
『うーん。家と職場は別っていうか…
あ、ほらほら!冷蔵庫の開けっ放しは良くないよ。電気代がかさんじゃうんだから!』
明らかに誤魔化したエリが可愛くて、俺はついニヤケ顔になってしまう。そして彼女に言われた通りに、冷蔵庫の扉を閉めるのだった。
彼女は、頑として料理は自分がすると言って聞かなかった。ぜひ手伝いをしたかったが、それすらも聞き入れてもらえない。
簡単に調味料の場所やキッチンの説明をしてから、仕方なくテーブルの前で待機する。
しばらくすると、ガサガサ、トントンと、料理を始めたらしい音が聞こえてくる。
その音に、俺は何故か正座で耳を傾けた。
意中の人が、自分の家で、自分の為に料理をしてくれる。そんな状況に、胸がトキめかないはずもなく。
瞳を閉じて、エリが料理する姿を想像した。