第77章 ぃやーぬくとぅ かなさいびーん!!
彼女のこっちの姿にお目にかかれる機会は、決して多くない。あったとしても、春人の時にウィッグを取る程度だ。
頭の中で、彼女が俺の前で変装を解いた回数をカウントしてみる。
まずは、大和と一緒にいた際の和装バージョンのエリ。あれは可愛かった…
それに、温泉で気を失った彼女を助けた時。あの時に、彼女が女であると知ったのだ。
直近では、雪山で遭難しかけた時の、山小屋での一夜…
それは、いま思い出してはいけない記憶だった。
そう。俺と彼女は、あの日あの夜 確かに1つになったのだ。
幸せな、夢のような記憶。ほんの少し気を抜くだけで、その記憶をしまった箱から ぶわっと溢れ出してしまう。
駄目だ。今は思い出すな。
エリの白い肌とか、その滑らかな感触とか、上がった息遣いとか、甲高い声とか……イイ表情とか!
止めどない煩悩を討ち払う為、俺は頭を壁に打ち付けた。
『りゅ、龍?大丈夫?さっきから、百面相してるけど…
あ!もしかして それ、龍の数ある特技の内の1つ?』
「そ、そういう事にしといてもらえると、助かる かな」
もしかすると、俺の前で春人を脱ぎ捨てた彼女を見て、期待してしまったのだろうか。
また、彼女に触れられるのか と。
なんて、馬鹿馬鹿しい願望なのだろうか。期待してはいけない。
あれは、たった一度の、幸せな夢だったのだ。
もし、欲する度に手に入るのならば、それは夢とは呼ばない。
夢は、手中に収める事が出来ないから、夢なのだ。
これまで幾度となく自分に言い聞かせた言葉を、懲りずにまた言って聞かせる。
彼女には、好きな人がいる。
彼女は、TRIGGERである俺を
決して 選ばない。