第77章 ぃやーぬくとぅ かなさいびーん!!
彼女が自宅の中に足を踏み入れるのは、実は初めてだった。送迎してもらう時は、いつも玄関前でさようならだったから。
お邪魔しますと言って、玄関に靴を揃えるエリ。いっきに背丈が15センチほど縮むと、途端に女性らしくなる。
『ここが龍の家!広い!それに天井高いね。あとロフトが素敵!いいなぁ…
あ、海の物がたくさん飾ってある。やっぱり好きなんだ』
「はは。大した家じゃないけど、エリが楽しそうで良かった」
『あ…ごめん。はしゃいだ。まじまじと家の中見ちゃ悪いよね』
「そんなの、全然構わないよ」
『洗面台はどこかな?ちょっと篭ってもいい?』
「あっちだよ」篭る?
そう言って彼女は、手荷物と共に 俺が指差した方向へ消えた。
エリが部屋に戻って来たのは、15分ほど経ってからだろうか。
現したその姿は、春人の要素が完全になくなっていた。
ウィッグ、化粧、服装。全てがエリに変わっている。
彼女のスカート姿は見慣れていなくて。スカートから伸びる素足の部分に、思わず目が行ってしまう。そんな自分が、ひどく邪な生き物に感じられて、意識的に視線をぐっと上にやった。
そんな俺の邪心を知ってか知らずか、エリは僅かに顔を傾け笑った。
すると、肩より少し上の位置で 彼女の髪がふわりと揺れる。
『ふふ。私の数ある特技の内の1つ、早着替えならぬ早変身。どう?凄い?』
「え…っと。凄い…し、あと 可愛い…」
嬉し過ぎるサプライズ。真っ白になりかけた頭で、なんとか捻出したのは、そんな言葉。
つまりは俺の、嘘偽りない 本心だった。