第77章 ぃやーぬくとぅ かなさいびーん!!
簡易的なジムならば、事務所の中にもある。しかし気分転換も兼ね、たまにはこうして外のジムに出向くのも悪くない。
着替え終わった俺達は、連れ立ってフリーウェイトエリアへと向かう。
白いスポーツウェアに身を包んだエリは、黙って俺の後ろを付いてくる。
「エリ…じゃなかった。春人くんは、ジムにはよく来る?」
『いえ。あまり利用しないですね。ランニングや軽い筋トレを家でするくらいですから。
なので、こういったジムの規則を教えてもらえると 有り難いです』
「規則って…。もちろん 俺で良ければ教えてあげるけど、そんなに堅苦しく考えなくても大丈夫。
ちなみに、どこをどんなふうに鍛えたいとかある?」
『腹筋を割りたいです』
ノータイムで切り返して来たエリ。
割らないで欲しいなぁ。
咄嗟に思い浮かんだそんな言葉を、なんとかギリギリ飲み込んだ。
俺の身勝手な気持ちは抑え込み、彼女を腹筋台に案内する。そして傾斜角度を設定してやると、エリは足を上にして寝そべった。
「角度キツくない?大丈夫?」
『平気、みたいです。
あ、これ、凄いですね。角度がある分、普通に腹筋するより、負荷が、良い感じにかかって、効いてる気が、します』
俺の心配をよそに、彼女はすいすいと腹筋運動を繰り返す。
「割らないで欲しいなぁ…」
そのあまりに軽快な動きを見て、俺は一度引っ込めたはずの言葉を口にしていた。